パン屋再襲撃 村上春樹
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堪えがたいほどの空腹を覚えたある晩、彼女は断言した。「もう一度パン屋を襲うのよ」。それ以外に、学生時代にパン屋を襲撃して以来、僕にかけられた呪いをとく方法はない。かくして妻と僕は中古のカローラで、午前2時半の東京の街へ繰り出した……。表題作のほか「象の消滅」、“ねじまき鳥”の原型となった作品など、初期の傑作6篇を収録した短編集。


☆いかにも村上春樹らしさを感じる短編集。それは東京を思わせる舞台背景だったり、どこかシュールで浮世離れした人物像だったり、妙にセックスのハードルが低い世界観と言ったものであるが、綺麗にオチを付ける通常の短編ではない、と言うのが共通点だと思った。
 とりわけ後の長編作品の原型と思われる作品に顕著であるが、あえて一つの作品として完結させるのでなく、どこかミステリアスで続きが気になるような書き方をしているからではないか。そう言う意味では、綺麗にまとまった短篇を求める読者向けではなく。「結局何が言いたいのか、わからない」と評されても仕方ない。そのように書かれているのだから。
 そういう村上春樹のスタイルを面白いと思う読者向けと、割り切って読んだ方が良いと思う。まとめてしまうと、読後に消化不良のモヤモヤ感は残るけど、読んでいる途中は面白いミステリアスな短編集。
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