ゴールデンスランバー 伊坂幸太郎
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衆人環視の中、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。なぜだ? 何が起こっているんだ? 俺はやっていない――。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走。行く手に見え隠れする謎の人物達。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテインメント巨編。

☆伊坂幸太郎の集大成を思わせる、読み応え抜群の長編だった。本筋のストーリーは荒唐無稽なホラ話で、リアリティーのかけらもない。だが、主人公を取り巻く人物たちとの過去のエピソードは、逆にリアリティーに溢れている。種々雑多で一見本筋と無関係としか思えないエピソードまで、伏線となって後で生きて來る書き方は、正しく伊坂幸太郎的。時系列に工夫を懲らし、効果的に過去のエピソードと、現在、そして未来を読ませるテクニックはプロの仕事であった。
 私はビートルズにもポール・マッカートニーにも、タイトルになった歌にも全く思い入れはない。それでも、ストーリーの基底に流れるこの歌の意味合いは十分に伝わったし、過去の仲間達が主人公を救うため、奮闘し、命を落とし、負傷するエピソードには心を打たれた。気が付けば泣いていたんだけど、こんなホラ話で泣かされるとはビックリだった。   


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