宮本武蔵(7)  吉川英治
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わが国の新聞小説で「宮本武蔵」ほど反響をよんだ小説はないであろう。その一回一回に日本中が一喜一憂し、読者は武蔵とともに剣を振い、お通とともに泣いた。そしていまひとつ気になる存在--小次郎の剣に磨きがかかればかかるほど、読者は焦躁する。その小次郎は、いち早く細川家に仕官するという。宿命の敵、武蔵と小次郎の対決のときは、唸りをうって刻まれてゆく。


☆武蔵の想い人である、ヒロインお通をめぐる人たちの、すれ違いぶりが、何とも印象深い。武蔵、そして生き別れになっていた弟と、なかなか会う事の出来ない悲運ぶりに、読者はお通の身になり胸を痛める事になるが、作者の目論見通りで、クライマックスに向けての盛り上げ方はさすがだ。
 さあ、いよいよ佐々木小次郎との対決だ。その気分を大いに高揚させてくれる事前準備の巻だったと思う。思えば、誰もが知ってるクライマックスなのに、そこまで少しも飽きずに読ませてくれたものである。武蔵をめぐる人間模様を、丁寧に描いてくれた吉川英治に感謝。


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