死刑 森達也
ダウンロード

罪とは何か。罰とは何か。そして、命とは何だろうか?議論はいつも「賛成か」「反対か」の二項対立ばかり。知っているようで、ほとんどの人は知らない制度、それが「死刑」だ。多くの当事者の声を聞き、論理だけではなく、情緒の問題にまで踏み込んだ、類書なきルポルタージュ。文庫版では、光市母子殺害事件の犯人、確定死刑囚となった元少年との面会も描かれる。そこに浮かび上がるこの制度の本質とは?


☆私はこの作家を大して読んだことがあるわけではないが、オウム真理教教祖麻原の死刑執行に反対した文章は読んでおり、その理由は考えも及ばぬものだったので、ビックリした事がある。この本は、実際にさまざまな立場や考えを持った人々に取材した内容に基づいて、彼が「死刑」についての論考を展開したものであり、恐らく死刑制度に反対する結論を下すのだろうと予想がついた。

   実際そのような結論に一応たどり着いているし、作者名からそれを予想し、初めから本書を手に取ろうとしなかった死刑制度存続論者も多いのではないか。日本では死刑制度存続に賛成の人が多数派であり、私自身は反対の意見なのだが、この本は一読の価値があると思った。なぜなら、作者が結論に至るまでの取材を読んでいて、私自身の気持ちが揺らぎ、死刑制度存続に一票を投じたくなったからである。それは作者自身が迷いながら真摯に問題に向き合い、決して一方の立場に偏する事のないよう配慮した内容だったからだと思う。

 もしかするとこんな読み方は作者の意図に反するものだったかも知れない。しかし、だからこそ本書の価値は大きいと私は思う。



森達也レビュー一覧