ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 阿部 謹也
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《ハーメルンの笛吹き男》伝説はどうして生まれたのか。13世紀ドイツの小さな町で起こったひとつの事件の謎を、当時のハーメルンの人々の生活を手がかりに解明、これまで歴史学が触れてこなかったヨーロッパ中世社会の差別の問題を明らかにし、ヨーロッパ中世の人々の心的構造の核にあるものに迫る。新しい社会史を確立するきっかけとなった記念碑的作品。


☆歴史の表舞台には決して出てこない、下層階級民衆の生活に光を当てたのが、全く新しいヨーロッパ中世史の研究書として画期的な名著。日本でもよく知られているグリム童話「ハーメルンの笛吹き男」の謎を追う形で、古今の膨大な研究書を紹介しながら作者独自の見解を述べているが、その過程で、今まで誰も顧みる事がなかったであろう名もなき民衆の苦難の歴史がその一端をのぞかせる。読んでいてとてもスリリングで、ミステリー小説を読んでいるような知的興奮を覚えた。  もちろんエンタメ小説ではないので、夢も希望もない民衆の話は気が滅入るし、謎は結局謎のままであるが、そんな未解明さを正直に述べているところも、学者としての誠実さを感じさせ好感を持った。

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