水滸伝〈11〉天地の章 北方謙三 
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梁山泊の頭領の対立が深刻化していた。兵力をもっと蓄えたい宋江(そうこう)。今すぐ攻勢に転じるべきだと主張する晁蓋(ちょうがい)。しかし、青蓮寺(せいれんじ)は密かに暗殺の魔手を伸ばしていた。刺客の史文恭(しぶんきょう)は、梁山泊軍にひとり潜入し、静かにその機を待ち続ける。滾(たぎ)る血を抑えきれない晁蓋は、自ら本隊を率いて、双頭山(そうとうざん)に進攻してきた官軍を一蹴し、さらに平原の城郭(まち)を落とした。北方水滸、危急の十一巻。


☆梁山泊が宋国との全面対決に踏み切る時期について、慎重派の宋江と対立した早期決戦派の晁蓋が業を煮やし、限られた兵を自ら率いて出兵。あくまでこれはデモンストレーションに過ぎないが、裏では血みどろの諜報戦が激化。表だっての戦闘が小競り合いの駆け引きなので比較的静かな印象を受ける巻だが、様々な人間の心理が細かく描かれて味わい深い。そして最後に官軍側最強の老刺客史分恭が晁蓋に牙を剥く。彼の生涯も細かく描かれており、晁蓋に戦で敗れた敗残兵の中から梁山泊への帰順を促されて仲間に加わった矢先だ。ここはミステリーさながらのミスリードが冴えており、まさかこの男が、と言う意外な犯人的衝撃を受けた。

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