水滸伝 6 風塵の章 北方謙三
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楊志(ようし)を失った梁山泊(りょうざんぱく)は、その後継者として官の将軍・秦明(しんめい)に目を付けた。秦明を梁山泊に引き入れるため、魯達(ろたつ)は秘策を考え出す。また、蔡京(さいけい)は拡大する梁山泊に危機感を抱き、対策を強化するため青蓮寺(せいれんじ)に聞煥章(ぶんかんしょう)を送り込む。聞煥章は李富(りふ)が恐怖を覚えるほどの才覚を持っていた。聞煥章が最初に試みたのは、宋江(そうこう)の捕縛である。強力な探索網が宋江を追い詰めていく。北方水滸、緊迫の第六巻。


☆相変わらず虫けらのように人を殺してしまうので今日の人権感覚からは辟易としてしまうが、それを押し殺せばメチャクチャに面白く読み応えがある。個人的に面白かったのは馬医者皇甫端のエピソード。騎馬隊を編制するため梁山泊に引き入れた元馬泥棒の段景住が、是非この男もと言い張って捜索するが、愛妻を寝取られた失意で酒浸りの廃人同然。アルコールを抜こうと酒を取り上げ水を飲ませようとするもうまくいかず、寝取った男がエッチしてる所を襲撃して男女2人の首を差し出してやる荒療治で目を覚まさせる。愛してた女の生首を見せられて、そんな奴らの仲間に入るもんかね? それとも自分を裏切った妻だから憎さも百倍なのか?
 今巻のハイライトは、惨殺された楊志の後釜として官軍側の大物泰明将軍を梁山泊側に引き抜く工作。隻腕で生まれ変わった魯智眞改め魯達が、偽文書まで用意し騙してでも仲間に引き抜こうとするが、実際は会って話しただけで心が通じ、無事寝返らせる事に成功する。これは明らかに北方謙三の創作で、原典では宋江の策略で妻子を味方に殺され帰る場を失った泰明将軍が、仕方なく梁山泊に居場所を求める筋書き。泰明は真実を知って激怒するが、今さらやむを得ず・・・と言うリアリティの感じられる話なんだけど、北方水滸の美学ではそれは許せないのだろう。
 それはさておき、今回も謎のカリスマ宋江は武松・李逵と言う最強の従者を従え自身はのんきな諸国放浪。隠れた逸材をスカウトする任務ならまだしも見聞を広めるためと言う信じ難い理由で、旅の途中でも基本何もしない。お前は幕末の天皇かよ! と言いたくなった。おかげで敵に狙われ絶体絶命で、以下続く、なのだけど。
 とっとと梁山泊に入って大人しくしてろよ、と思ったのは私だけか?


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