忘却の船に流れは光 田中啓文
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かつて世界は悪魔に滅ぼされた。主は五階層の閉鎖都市を創造し、聖なる<壁>によって悪魔の侵入を食いとめたという。それから幾星霜、都市を統べる<殿堂>の聖職者ブルーは、悪魔崇拝者の摘発後、世界の真理を探究する修学者ヘーゲルに出会い、<殿堂>の厳格な支配に疑問を持つ。それは、神と悪魔をめぐりブルーを嘲弄する、狂乱劇の始まりだった。やがて、すべてが昇華する地平に真実が顕現する──著者畢生のSF黙示録。


☆ダンテ「神曲」をSF的に再構築した作品と読んだ。全編を通じての過剰なエログロ描写はこの作者らしいが、それも閉ざされた世界での混乱と狂気を表すもので、この世の地獄をよくこれだけ執拗に書けたものと感心。真面目に読み込むと気分が悪くなるので、適当に飛ばし読む方が無難。
 この大作の最後が駄洒落オチと見る人もいるだろうが、まるで本格ミステリのような見事な結末だと思う。駄洒落は温めていたSF的アイディアを遂に世に出す作者の照れ隠しのようなものに感じた。グイグイ読ませる本格SFの傑作と評しておく。


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