悪魔が来りて笛を吹く 横溝正史
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世の中を震撼させた青酸カリ毒殺の天銀堂事件。その事件の容疑者とされていた椿元子爵が姿を消した。「これ以上の屈辱、不名誉にたえられない」という遺書を娘美禰子に残して。以来、どこからともなく聞こえる“悪魔が来りて笛を吹く”というフルート曲の音色とともに、椿家を襲う七つの「死」。旧華族の没落と頽廃を背景にしたある怨念が惨殺へと導いていく――。名作中の名作と呼び声の高い、横溝正史の代表作!!


☆さすがは大家横溝正史の代表作だけあって、読み応え十分の傑作。まずはいかにも陰惨な殺人事件が起こりそうな舞台設定。没落した華族の家に集まった、互いにいがみ合っている親族。気弱で軽んじられている一族の長が失踪して自殺した筈なのに、復活?して姿を現し、生前に作曲していたフルート曲「悪魔が来りて笛を吹く」が流れると共に殺人が行われ、復讐鬼として戻って来たのかと生存者を恐怖のどん底に突き落とす。その他、いかにもな横溝ワールドが隅々まで構築されていてその中に伏線も盛り沢山。おどろおどろしい独特の雰囲気に圧倒されながら、最後に伏線が回収されていくカタルシスは格別。 
 そしてクライマックスに向けて大きくストーリーが展開する部分の演出がいつになくダイナミックで凄かった。台風が直撃した日に未亡人のあき子が恐怖に耐えかねて屋敷を脱出し別荘に向かうとんでもない行動を起こし、関係者全員がタクシーでそちらへ向かう。ところがその別荘に「悪魔」が現れて笛を吹き、あき子が殺害される。金田一は関係者を集めていよいよ謎解きを披露する・・・ほとんど息もつかせぬスピーディーなたたみ込みには感服した。
 ネタバレになるが、忌まわしい近親相姦の重なりで生まれた「悪魔」が怨念で一族に復讐するストーリー。弊ブログの18禁観点からは、未亡人になって日が浅いのに、野獣のような男と再婚してしまうあき子夫人のエピソードが興味深い。やはり華族的な近親婚のせいでとんでもない娘が生まれた設定らしいが、淡泊な夫のセックスではとても満たされない獣欲の持ち主。夫が自殺する前から男と出来ていて肉体関係も持っていたビッチだが、彼女の本性を知っていた親族からは黙認されていたと言う・・・この人をヒロインにして人妻不倫ものの官能小説が出来そうだね。
 この作品、本格ミステリとしては金田一がほとんど推理していないと言う欠陥があり、必ずしもホメられた出来ではないと思う。が、単に小説としての面白さが一級品。私はそもそも面白ければ何でも良い、と言う立場なので本作を横溝正史の代表作とする考えに賛成である。死ぬまでにもう何回か読み直してみたい本に入るかな?


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