人面瘡 横溝正史  
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「わたしは、妹を二度殺しました」。金田一耕助が夜半、遭遇した夢遊病の女性が、奇怪な遺書を残して自殺を企てた。妹の呪いによって、彼女の腋の下にはおぞましい人面瘡が現われたというのだ……。妖異譚に科学的な解決と深層心理の解明を加えた表題作に、本格ミステリーのバイブルといわれている「蜃気楼島の情熱」ほか三編を収録。


☆比較的初期の金田一耕助の活躍を描いた短編集。やはり長編の圧倒的なパワーには及ばないものの、まだ探偵業駆け出し時代の金田一の飄々とした好人物ぶりが楽しめる。「蝙蝠と蛞蝓」の趣向も面白く、初め忌み嫌われていた彼が受け入れられていく様子がわかるが、名探偵としての名声を確立するまでの私立探偵は、こんなものかも知れない。表題作の「人面瘡」の解釈は眉唾な疑似科学っぽいもので首を傾げるがそれもご愛敬。
 全て短編と言えど扱われている事件の陰惨さはいつもの横溝正史。それを金田一耕助の人を食ったような言動の醸し出すユーモアが救っている。その長編にも通じる構図がよりハッキリと現れており、日本のキャラミスの先駆者として高く評価したい。


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