盗賊 三島由起夫
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子爵家の一人息子藤村明秀は母の旧友の娘に恋をするが、したたかな相手に翻弄されるだけで終る。やがて、傷心のあまり死を決意した彼の前に、男爵家の令嬢山内清子が現われる。彼女もまた恋に破れ、自殺を考えていた。二人は互いの胸の中の幻影を育てあうという〈共謀〉を始める……。死の想いによって引き寄せられた一組の男女を中心にくり広げられる精緻微妙な愛のアラベスク。


☆三島由起夫の処女長編らしい。が、冒頭から濃密かつ華麗な描写に圧倒され、文章力、あるいはスタイルは既に完成されていたんだなと感心。彼自身の生い立ちと重なるのか知れないが、「1930年代に於ける華冑界」と言うやや浮き世離れした上流社会が舞台。あまりに自分自身の現状とかけ離れた世界なのでやや戸惑ったが、素晴らしい文章力でグイグイ読まされたのは流石。内容的にも極めて技巧的で、あらすじだけだとあり得ないような心中をする新婚夫婦を描いているが、非常に緻密な心理描写を積み重ねて読者に納得させてしまう。そしてタイトルの意味が明らかになる圧巻のラストが素晴らしい。あらすじだけだと意味不明なストーリーを、相応の文章量で描き切るのが小説家の意義であり、処女長編で達成していた三島由起夫はやはり凄いと思う。
 あまりに技巧的でやや人工的なきらいを感じる話なので満点評価はしないが、とても濃密な読書体験をする事が出来た。


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