禁色 三島由起夫
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女を愛することの出来ない同性愛者の美青年を操ることによって、かつて自分を拒んだ女たちに復讐を試みる老作家の悲惨な最期。


☆私は18禁SM小説をネット上で発表している素人作家である。性的なものに関して大抵は許容出来るのだけど、どうしても生理的に受け付けないのが男性の同性愛。生理的とは言ったが、恐らく日本社会の中で文化的に影響を受けてるのだろうとも思う。日本でも戦国時代の大名は男色が普通のたしなみだったはずだし、女性の数が少なかった江戸時代でもそうだろう。男色がタブーとされたのは近代になってからだろうから。本作は私小説「仮面の告白」で性的マイノリティーであるとカミングアウトして文壇デビューした三島由起夫が、一筋縄ではいかない重層的な物語構造の中でこの問題を描いたもので、質量ともに男色文学の最高峰ではないかと思う。
 前半では老作家俊輔が、女性を愛する事が出来ない美青年悠一を使って自分を苦しめて来た女性たちに復讐するストーリー。悠一は若く美しい妻と愛のない結婚をし、子供まで作るが、俊輔の指示で他の女性、さらには男性も誘惑して彼らを陥れる。後半では操り人形だった悠一が自我を主張し始め、妻の出産に立ち会って彼女への愛を確信しながら、他所で男性との性的関係も断ち切れない。だが、男色者である事が家族に明かされても居直ったかのように平然と出産した妻と結婚生活を続け、悠一への同性愛を自覚した俊輔が多額の遺産を彼に残して自害する結末。前半では三島自身が俊輔のように読めるが、後半では悠一になった感じで、近代日本社会で迫害される性的マイノリティーが復讐を果たした上に堂々と新しい愛の形を提示していると、私は読んだ。実際に性的マイノリティーへの迫害は解消されつつあるし、同性同士の結婚を認めようという動きもあるのは周知の通り。試験管ベビーなどの技術も進み、本書で提示された同性愛者の男性と普通の女性が結婚し、さらに他の男性も含めて同居する家族モデルと言うのも決して荒唐無稽ではなくなっていると思う。
 満点評価しないのは、男色に対する嫌悪感の問題ではない。饒舌で豊穣な文体は三島由起夫の特長と思うが、俊輔が文学観を述べている部分はまるで解説でも読んでるみたいで不要と思ったからである。作品構成上も不要な内容と思ったのだが、どうか?


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