チョウたちの時間 山田正紀
19905051
 

少年時代のある夏の日、長い髪の美しい少女から手渡された一匹のチョウ……。それが宇宙、反宇宙、そして〈時間〉さえも舞台にくり広げられる人類の命運を賭けた凄絶な闘いに関わっているとは! ――すべての謎をとく鍵は、ファシズムの嵐が吹きあれる1930年代のヨーロッパを放浪する一原子物理学者の行く手にあった。彼はいったい何を見、どこへ行くのか。人類に残された唯一の可能性は〈時間〉を支配することなのか……。壮大なスケールで〈時間〉テーマに挑んだ超SF長編。


☆ 山田正紀は学生時代にハマっていたSF作家。たしか星新一、小松左京、筒井康隆らより次世代組で、処女作「神狩り」の時点で既に完成度の高い一流作家だったイメージ。特徴は本格SFを書いても読み易いエンタテイメント性の高さだ。さらに次世代作家の神林長平などは独特のくせがあって難解だけど、山田正紀は誰にでも勧められる作家だと思う。多作家でミステリも書いてるらしいが、それはよく知らない。「宝石泥棒」が代表作だった筈だが、壮大なスケールの「時間」について考察する本格SF「夢と闇の果て」というややマイナーな作品を読んだ後呆然とするくらいの衝撃を受け、大学をサボった記憶がある。当時は図書館で借りた「夢と闇の果て」を入手しようとネットで検索していて、同じテーマの本作の存在を知って一緒に取り寄せたのだ。
 さて読んで見た感想は・・・微妙。イラスト付きが売りものの文庫みたいで、ラノベだかジュブナイルだかの印象を受けてしまったのがまずかったか、どんどん読めるが内容も薄く感じてしまった。難しい内容を易しく書く山田正紀らしい作なんだけど、本来難解で壮大な「時間」と「空間」の戦いが妙にチープにしか頭に入らなかった。冒頭で見知らぬ少女にチョウを渡された男が、物凄いスケールで人類滅亡の危機を救うために命を捨てて戦い、後にはそのチョウだけが残されていた・・・と言う綺麗なまとまりも小説巧者の山田正紀らしいが、感動するには至らず。
 話がマニアックな方向にそれるが、私は「詰将棋パラダイス」と言う日本唯一の詰将棋専門誌の40年来の読者であり、かつては解答競争で年間上位に入ったこともある。だから解くのは普通の人以上に早いと思うが、特に早く解こうと思ったらその詰将棋の狙いを読み取り、変化を読み飛ばすのがコツだ。作者がわかっていれば作品傾向がわかり、さらに早く解ける場合も多い。しかし早解きだけに特化してしまうと、鑑賞が二の次になってせっかくの詰将棋を味わうことが出来ない。
 別に読書量を競っているわけでもないのに、もしかするとじっくり鑑賞すべき作品を早く読み過ぎてしまったのだろうか? そのせいで時間があり余っていた学生時代に山田正紀を読んだ感動を味わえなかったとすれば残念である。


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