三国志〈3〉草莽の巻 吉川英治
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董卓亡き後、またもや苦境に陥った帝を助けた曹操は、丞相となり朝廷で躍進。若き孫策は江東を平定し、小覇王と呼ばれるように。さらに淮南では、強大な勢力を誇る袁術が、自らを帝王と称しはじめる。翻弄される劉備の明暗やいかに!?栄華と混戦の第三巻。


☆今巻も、武力100で知力0みたいな呂布が主役。家臣に謀られて、とうとう絶体絶命の危地に陥る彼の暗愚ぶりが印象的だが、現代の目で公平に見れば決してバカではないし、実に人間的で魅力十分だ。人間離れした武力の強さはさておき、他人の言葉に容易に影響され優柔不断で何をしでかすかわからない。かと思えば、娘を溺愛して政略結婚させることに悩み抜いたり、惚れた女性に振り回されたり、困ったやつだけど共感出来るとことの多い男ではないか。
 劉備が敗将として命からがら逃げ落ちた田舎の貧村で、彼の名声を知っている男が獣?肉料理でもてなす。ところが、これが彼の妻の肉だった、と言う現代感覚では酸鼻なエピソードが美談として出て来る。吉川英治もさすがに躊躇ったと見えて、わざわざ原書通り収録することの意味を述べたりしているが、こんなトンデモ世界の三国志で、あまりにも人間的な呂布がいかにも異端児であるかのごとく述べられているのは象徴的だ。
 吉川三国志は従来悪役として描かれていた曹操の魅力を伝え彼を復権させたところに文学的価値があるそうだが、私はあえて言いたい。三巻までの主役は呂布であり、又彼はそれにふさわしい魅力的な人物である、と。


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