三国志〈4〉臣道の巻 吉川英治
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丞相曹操の権力はいよいよ強大になり、許田の猟において献帝を軽んじるような行動に出る。憂いを深めた献帝は、信頼する大臣の董承に曹操暗殺の秘勅を降す。曹操の庇護のもと許都で暮らす劉備も、密かにその連判に加わることになる。苦闘と忠義の第四巻。


☆曹操が勢力を伸ばし、とうとう三国志一のトリックスター呂布が命を落とすのが前半のヤマ。ゲームなら武力100で知力ゼロみたいな呂布は、最後も敵に包囲されている中、政略結婚にかわいい愛娘を遠方まで送り届けて援軍を要請しようと企て、凍えるような寒空の下自分の背中に娘を括り付けて強行突破しようとするも、娘を傷付けないために戦いを回避してノコノコと撤退して戻って来ると言う醜態を晒す。そして安全な城内で家族や愛妾と酒浸りの毎日を過ごしている所を、過酷な扱いをしたため寝返った雑兵に襲われて捕らえられるのだが、あまりにも人間的で煩悩塗れな彼らしい最期と言えるだろうか。とまれ三国志全体の序盤に当たるここまでの主役はやはり呂布だったように思う。一騎当千で無敵の強さなのに、女に惑わされ失敗を繰り返す人間臭さが、単なる悪役には思えない彼の魅力だった。
 後半は反曹操同盟に加わった劉備が悟られないように隠忍自重する様が何とも面白い。そして何とか曹操を騙す形で大軍の兵士まで借り受けて虎口を脱し、地方で力を蓄える事になる。諸葛亮孔明を軍師に迎えるまで我慢の子の劉備と言うのがここまでのストーリーだが、十分わかっていても続きが待ち遠しい。


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