ダンス・ダンス・ダンス(下) 村上春樹
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失われた心の震えを回復するために、「僕」は様々な喪失と絶望の世界を通り抜けていく。渋谷の雑踏からホノルルのダウンタウンまで――。そこではあらゆることが起こりうる。羊男、美少女、娼婦、片腕の詩人、映画スター、そして幾つかの殺人が――。デビュー10年、新しい成熟に向かうムラカミ・ワールド。


☆村上春樹が新訳を出しているチャンドラーの作品がそうなのだが、全体的なストーリーは忘れてもある場面やらセリフが印象的でいつまでも心に残る、そういう作品だと思った。個人的に印象に残ったのがディック・ノースの死に接して後悔を口にするユキに対しての主人公の言葉。まるでチャンドラーが創造した名探偵フィリップ・マーロウが言ったかのような名セリフだった。「後悔するくらいなら君ははじめからきちんと公平に彼に接しておくべきだったんだ。でも君はそうしなかった。だから君には後悔する資格はない。全然ない・・・」このセリフに出会えただけでこの作品を読んだ価値があると思ったし、読む人それぞれにそんな名場面、名セリフがあるのではなかろうか。波長が合う人に限られるかも知れないが。
 村上春樹の作品は細部に神が宿っているのだ。


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