風の歌を聴け 村上春樹
0dc068ed


「あらゆるものは通り過ぎる。誰にもそれを捉えることはできない。僕たちはそんな風に生きている」1970年8月、帰省した海辺の街。大学生の〈僕〉は、行きつけのバーで地元の友人〈鼠〉と語り明かし、女の子と知り合い、そして夏の終わりを迎える。過ぎ去りつつある青春の残照を鋭敏にとらえ群像新人賞を受賞した、村上春樹のデビュー作にして「初期三部作」第一作。


☆村上春樹のデビュー作であるが、モラトリアムな大学生、友人との不毛な日々、セックス、そして死。そんなモチーフは「蛍」そして「ノルウェイの森」に通底するもので、改めて彼の原点なのだろうと感じた。
 よく現実感に乏しいと批判される作家だけど、無意味に時間だけあって無為に過ごした学生時代の感じをとても良く表していると個人的には感じた。もちろん単純に「セックス」だとか「身近な人の死」を経験したわけじゃないんだけど、作者と同世代である私には確かに共感するものが感じられたのだ。
 私の世代以後、大学生がまじめに良く勉強するようになったと聞く。たぶん作者より下の世代には絵空事のように感じられるのではなかろうか。デビュー時には青春を描いていた筈の村上春樹も、結局普遍的でなく「あの時代」の青春を描いていたに過ぎないわけだ。


村上春樹レビュー一覧