風の万里 黎明の空〈上〉―十二国記 小野不由美
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人は、自分の悲しみのために涙する。陽子は、慶国の玉座に就きながらも役割を果たせず、女王ゆえ信頼を得られぬ己に苦悩していた。祥瓊は、芳国国王である父が簒奪者に殺され、平穏な暮らしを失くし哭いていた。そして鈴は、蓬莱から辿り着いた才国で、苦行を強いられ泣いていた。それぞれの苦難を負う少女たちは、葛藤と嫉妬と羨望を抱きながらも幸福を信じて歩き出すのだが―。


☆十二国記の世界もかなり進み、なじみのキャラクターや国に加えてますます多くの国が登場し、しかもまだ未知の国があると言う。緻密な描写を積み上げて構築された世界の豊穣さに圧倒される思いである。
 今作ではごく普通の女子高生だったのにこの世界に流されて、苦難の末女王に君臨するも役割を果たせず苦悩する陽子の他、それぞれの苦しみを抱えた3人の少女のストーリー。女性が出産しないので比較的社会進出が進んでいると思われるこの世界でも、なお「女」であるがために苦労するエピソードが多く、しばし考え込んでしまった。陽子が流れ着いた当初の人間不信に陥るサバイバル生活ほどではないが、それぞれの少女が自分の主観では他人に酷い扱いを受け絶望し掛けている。そして他人に羨望や嫉妬や憎悪などの悪感情を向け、人としての道を外れようとする少女もいる。が、そんな中でも他人との触れ合いの中で心が癒され自分を省みて未来へ進もうとする、と言うのが基本的な話の流れ。
 この話の前半部だけなので、彼女達がまだ直接絡み合う事はなく、暗示されているだけ。そのためややモヤモヤ感は残る。又、女性が出産しないと言う設定が有効だったのかどうか、など若干気になる点はあるものの、あっと言う間に読ませてしまう筆力が抜群な力作だった。


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