スタイルズ荘の怪事件 アガサ・クリスティー
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旧友の招きでスタイルズ荘を訪れたヘイスティングズは到着早々事件に巻き込まれた。屋敷の女主人が毒殺されたのだ。調査に乗り出すのは、ヘイスティングズの親友で、ベルギーから亡命したエルキュール・ポアロだった。不朽の名探偵の出発点となった著者の記念すべきデビュー作。


☆クリスティーの主立った作品は読んだ事があるが、読書王モードに確変している今、一から全部読んでやろうじゃないかと企てて手に取ったデビュー作は初読である。名探偵エルキュール・ポアロも初登場であるし楽しみだったが、正直な所あまり期待せずに読み始めた。

 すると初めのうち妙に読み辛く、まあ処女作だし仕方ないかと思ったのだが、中盤からあざといばかりのミスディレクションが目立ち、どんどん面白くなって来た。真犯人を読者の予想から遠ざけるミスディレクションの巧みさはクリスティーの特徴で、犯人捜しを推理する本格ミステリーの醍醐味を味わわせてくれる。クリスティーの場合は物理的なトリックより意外な真犯人と言う話の作りが得意で、本作でもミスディレクトされてるのはわかるのだが、じゃあ真犯人は誰よ? と言われると全然見当が付かない。最後は「なるほど」と膝を打つことになり、デビュー作からこのスタイルが完成していたとは予想外だった。

 ワトスン役のヘイスティングスがいかにも愚直な、すぐに女性に惚れてしまうお人好しで、やたらテンションが高く奇人のふるまいを見せるポアロに翻弄されるのが楽しく、最後は大団円っぽいハッピーエンド。さすがにうまく収まり過ぎかと思えるのはデビュー作だからなのだろうけど、今読んでも十分に通用する本格ミステリーに仕上がってるのはさすが。この作品を出版社に持ち込んでもなかなか採用してくれなかったとは信士難い。おそらくクリスティーが時代を先取りし過ぎていたのだろう。


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