牧師館の殺人 アガサ・クリスティ
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嫌われ者の老退役大佐が殺された。しかも現場が村の牧師館の書斎だったから、ふだんは静かなセント・メアリ・ミード村は大騒ぎ。やがて若い画家が自首し、誰もが事件は解決と思った……だが、鋭い観察力と深い洞察力を持った老婦人、ミス・マープルだけは別だった! ミス・マープルの長篇初登場作を最新訳で贈る。


☆クリスティーはかなり読んでるが、ミズ・マープルものは初めて。しっかりした本格ミステリだったが、かなり出しゃばり気味なエルキュール・ポアロに比べて、ミス・マープルは中盤ではほとんど出番がなく影が薄い。その代わり? なのか、彼女の知り合いのオバチャン連中が、この村では珍しい殺人事件に興味津々で嘴を挟んで来る。イギリスの片田舎が舞台で、特別な金持ちでなくても使用人を雇っている時代、他に娯楽がなくゴシップの噂話が生きがいみたいなオバチャン達。日本人であってもノスタルジーを感じさせるような雰囲気の中、決して出しゃばらないが最後に名推理を披露するミス・マープルが印象的なデビュー作だった。
 全体の叙述トリックはクリスティーのデビュー作「スタイルズ荘の怪事件」の二番煎じ。ミス・マープルの原型は「アクロイド殺し」のゴシップ好きな真犯人の姉と言う解説を読んでなるほどと思った。ミス・マープルの長編処女作と言っても、クリスティーは40歳で円熟期の作品。本格ミステリとして安心して読めるハイレベルさに納得だ。殺人の引き金となった不倫などいろいろ不道徳な問題も、現代の日本に置き換えて十分通用するもので、鑑賞に値する本格ミステリの傑作と評価したい。


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