ヨハネスブルグの天使たち 宮内悠介
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戦災孤児のスティーブとシェリルは、見捨てられた耐久試験場で何年も落下を続ける日本製ホビーロボット・DX9の捕獲に挑むが―泥沼の内戦が続くアフリカの果てで懸命に生きる少年少女を描いた表題作、9・11テロの悪夢が甦る「ロワーサイドの幽霊たち」など、日本製の玩具人形を媒介に人間の業と本質に迫る連作5篇。デビュー作『盤上の夜』に続く直木賞候補作にして、日本SF大賞特別賞に輝く第2短篇集、文庫化。


☆初音ミク? と思われるDXー9と言う日本製AIロボットが降って来ると言うモチーフで書かれたオムニバス短編集。それだけ聞くとナンノコッチャだが、近未来の設定で紛争や内戦が泥沼化した地域を取り上げ、9・11後の混沌とした世界に真っ正面から取り組んだ志の高い短編集である。とりわけ表題作は傑作で、読んでいて魂が震えるほど感動した。
 日本人にはアパルトヘイトやマンデラ大統領のイメージの南アフリカ。だがこの世界では主流派になった黒人勢力と、それに対抗する白人勢力との内戦が泥沼化している。主人公の黒人少年スティーブは同じ日に戦災孤児になった白人少女シェリルと知り合い、生まれて初めて盗んで来たパンを彼女に与えてパートナーとなる。スラムで身を寄せ合い暮らしながら、2人は困窮生活から脱出するためAI技術者をめざす。そんな彼らが、なぜか大量に降り続けるDXー9の一体を捕獲し、意思疎通を試みる。うまくいかないが、その一体は確実に人格を備えており、何度も落下する苦痛から救ってくれた2人の成長を見守ることになる。
 スティーブは大学に進んで政治活動を始め、結婚したシェリルが白人である事も評価されて、内戦を収拾すべく大統領にまで上り詰める。だが、反対派のテロリストに狙撃され、外れた銃弾がシェリルの命を奪う。内戦はもはや手の付けられないほど激化して、絶望したスティーブはシェリルの研究を生かして希望者の人格をDX-9に転写し、集団で人の住めない砂漠へと移住する。その時、あの2人が意思疎通を試みたDXー9が本来の機能を発揮して歌い始めるのが詩的で美しく、魂が震える気持ちを覚えた。
  ハードSFで難解だし、戦争ものと言うだけで拒絶感を持つ人には駄目だろうが、傑作なのは間違いないと思う。


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