明智小五郎事件簿2 江戸川乱歩
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ある春の夜、浅草公園で小林紋三が目にしたものは、十歳くらいの子供の胴体の上に、大人の頭が乗っかった小男だった。その不気味な男の懐中から、風呂敷に包まれた青白い人間の手が転がり落ちた。同じ時、山野家の令嬢、三千子が行方知れずになっており、百貨店では女性の切断された手首が見つかっていた――。上海帰りの明智小五郎が活躍する「一寸法師」。本格推理の傑作「何者」を同時収録。


☆収録されている2作品のうち、解説では余計な夾雑物のない本格推理ものとして「何者」を高く評価しているが、個人的な評価は逆。いかにも乱步らしいエログロ怪奇趣味が濃厚な「一寸法師」に強く惹かれた。二作ともラスト近くで真犯人が二転三転する「意外な犯人」と言う共通点があるが、「一寸法師」では一応の解決を見せた後で、真相は違うのに明智の企みでこの結末に偽装したかのように暗示されるのが見事である。本来一番理知的で真実を暴く筈の名探偵明智小五郎すら危険な異常性を持っているように描写されることで、フリークス嗜好に彩られたこの小説の異常性がより一層際立って来るように、私は思った。
 解説が嫌う乱步の「体臭」が濃厚な「一寸法師」こそ乱步の真骨頂であって、たとえ乱步本人の評価が低かろうと、その魅力は強烈なのである。現代の目では差別表現のみならず差別意識も明確なこの作品の「ヤバさ」が、明智すら飲み込んだ怪作と評価。


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