さよなら妖精 米澤穂信
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☆創元推理文庫だし、一応「日常の謎」系ミステリと分類される話なんだろうけど、読んだ印象は全然違う。エンタメ度を抑えた純文学寄りの小説で、ユーゴスラビアからやって来た少女を巡り、関わった高校生男女が大学生になって回顧し彼女についての謎を追うストーリー。特殊なキャラはいないのだけど、奇異をてらわない人物造形が良かったと思う。平凡な日本の高校生に混じって、この少女の妖精ぶりが際立った。そして彼女に惹かれ現地に行こうとしている男に対する思いを秘めながら、優れた洞察力を持つ故に悲しい事実を隠さざるを得なかった大刀洗が、最後に激情を吐露するクライマックスが秀逸。不器用な若者の恋愛模様が底に流れる、奥床しい青春小説で、心に染みた。
 ミステリだと思うと肩透かしを食うが、ジックリ読めば実に味わい深い。純文学が苦にならない読者向けと思う。


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