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エトロフ島は好漁場であったが、すさまじい潮流が行く手を妨げ、未開のままだった。しかし幕府は北辺の防備を固めるため、ここに航路を確立する必要を痛感して、この重要で困難な仕事を嘉兵衛にゆだねた。彼の成功は蝦夷人にも幕府にも大きな利益をもたらすだろう。しかしすでに、ロシアがすぐ隣のウルップ島まで来ていた。


☆嘉兵衛が、挫折とまではいかないが、出鼻を挫かれ、苦難を味わう巻。彼の目指す道は、崇高なものに思えるが、身分社会の煩わしさや、さまざまな軋轢が、立ちはだかって、幕府の蝦夷地直轄経営は、頓挫する。だから言わんこっちゃない、と言う非難の声が聞こえるようだ。
 嘉兵衛の味わう苦難がリアルで、読んでいてやり切れない気分になってしまった。今なお禍根の残る北方領土問題。ロシアが牙をむき、ますます解決からほど遠くなった今読むと、現実の厳しさを痛感させられる思いになった。
 ロシアが絡むと、素直に楽しめない、と言うのが、正直な読後感。

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