楊令伝 一 玄旗の章 北方謙三
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戦火から生き延びた呉用は、梁山泊の生き残りを組織しつつ、南方で勢力を増し叛乱を企図する方臘の配下に偽名を使って潜入する。少年・岳飛は山賊掃討戦のさなか、童貫元帥と出会う。幻王を名乗る楊令は、公孫勝、武松、燕青らの懇願によって、ついに女真の地より戻って、呉用と対面する。そして、宋国打倒はするが、建国の意思はなし、と言明。旧梁山泊と楊令の戦略、考え方の違いが浮き彫りとなる。その間に宋金同盟による遼への侵略と、方臘の蜂起の時期が刻々とせまっていた。


☆今巻のハイライトは、武松と楊令の立会。と言っても真剣勝負ではないが、死を覚悟した武松の業が、その拳にあると見抜いた楊令が、目にも止まらぬ早業で、スパッと切り落としてやるのだ。そして、一緒に食べてやるが、まずくて食えたもんじゃなかった、と言うのが、武松の業の深さを示していると思う。

 武松は業から解放されて、人が違ったように社交的になると同時に、楊令が次代のリーダーに相応しい資質を備えている事を確信するのだ。さまざまな人物に焦点を当てる描き方で、他にも印象的なエピソードが満載だったが、私はこれをハイライトとして選びたい。

 本格的な戦が始まる準備段階の話だったが、全く飽きず、緊張感を持って読むことが出来た。今後の展開に大いに期待している。 


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