ローマ人の物語 (23) 危機と克服(下) 塩野七生
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ヴェスパシアヌスの長男として皇位に就いたティトゥスは誠実を身上とし、ヴェスヴィオ山の噴火によるポンペイの全滅、そして首都ローマの火災という惨事にも対策を怠らなかった。しかし、不運にも病に倒れ、その治世は短命に終わる。続いて皇帝となった弟ドミティアヌスは、死後「記録抹殺刑」に処せられる。帝国の統治システムを強化し、安全保障にも尽力したにもかかわらず、なぜ市民や元老院からの憎悪の対象になったのか。


☆火山の噴火で全滅し遺跡で有名なポンペイの悲劇やそれに続くローマの大火事といった災害に追われ、自らも短命に終わったティトスは不運の一言だが、跡を継いだ弟のドミティアヌス帝についてが本巻のハイライト。暗殺された上に不名誉な「記録抹殺刑」を受けた理由は何か。何しろそういう記録そのものが抹殺されたため、作者も歯切れが悪くならざるを得ない。しかし、それでも何とか理由を探ろうとした作者の想像力には敬意を表したい。歴史家でなく小説家としての塩野七生が意地を見せた巻であった。

 


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