ローマ人の物語〈15〉パクス・ロマーナ(中) 塩野七生
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「帝政」の名を口にせず、しかし着実に帝政をローマに浸透させていくアウグストゥス。彼の頭にあったのは、広大な版図に平和をもたらすためのリーダーシップの確立だった。市民や元老院からの支持を背景に、アウグストゥスは綱紀粛正や軍事力の再編成などに次次と取り組む。アグリッパ、マエケナスという腹心にも恵まれ、以後約200年もの間続く「パクス・ロマーナ」の枠組みが形作られていくのであった。


☆アグリッパ、マエケナスと彼を献身的に支えてくれた人物を失いながら、パクス・ロマーナを目指す皇帝アウグストゥスの地道な努力は続く、の巻。最後に帝国の北部防衛戦をライン川からエルベ川に移動させるためゲルマン民族と戦う話が出て来るが、実際の戦闘描写はなく、全体に地味な内容。が、自分がカエサルのような天才ではない事を知り尽くしたアウグストゥスが数少ない協力者の助けを借りながら、カエサルには出来なかった一大帝国を築き上げていく深謀遠慮ぶりが描かれてとても興味深かった。
 日本史で言えば徳川家康のような立場だろうか。健康面に不安があり戦闘は全て頑強なアグリッパに任せて来たアウグストゥスの方が長命だったと言うのが象徴的。自分が凡才であると自覚して忍耐強く努力した彼のような男が一大帝国を築き上げたのである。「己の凡を自覚するのが非凡」と言ったところか。


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