ローマ人の物語〈17〉悪名高き皇帝たち(1) 塩野七生
無題


帝政を構築した初代皇帝アウグストゥス。その後に続いた、ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロの四皇帝は、庶民からは痛罵を浴び、タキトゥスをはじめとする史家からも手厳しく批判された。しかし彼らの治世下でも帝政は揺らぐことがなく、むしろローマは、秩序ある平和と繁栄を謳歌し続けた。「悪」と断罪された皇帝たちの統治の実態とは。そしてなぜ「ローマによる平和」は維持され続けたのか。


☆初代皇帝アウグストゥスの跡を継ぎ、後生の歴史家達の評価が低い皇帝達の失地回復を試みた巻。まず2代目ティベリウスだが、アウグストゥス直系でなく、初めから次代への繋ぎと目されていた皇帝。本人もそのように振る舞っているが、緊縮財政に着手し帝国領土のこれ以上の拡大を断念して、ローマ市民には征服間近と誤解されていたエルベ川戦線から撤退。真面目一徹で自らの神格化は断固拒否。元老院との協調は遵守するが、自分に一任しようとする議員は厳しく批判。その他、わざとではないかと思うくらい嫌われる要素が多く、周囲から煙たがられていたであろう事は明白。要するに正義の人で言行に申し分なく立派。付け込むスキが全くないから、息が詰まる皇帝だったのだろう。彼を擁護する立場から考えれば、どこに問題があるのか、彼を貶めようと反対派を形成したアグリッピーナこそ、愚かな悪女ではないかと言う事になろう。
 彼の再評価を図った塩野七生の意図は十分に成功している。だが、ティベリウスが不人気だったのも十分に理解出来るのであり、彼を嫌ったローマ人達に個人的には共感を覚えた。


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