ローマ人の物語〈20〉悪名高き皇帝たち(4) 塩野七生
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紀元54年、皇帝クラウディウスは妻アグリッピーナの野望の犠牲となり死亡。養子ネロがわずか16歳で皇帝となる。後に「国家の敵」と断罪される、ローマ帝国史上最も悪名高き皇帝の誕生だった。若く利発なネロを、当初は庶民のみならず元老院さえも歓迎するが、失政を重ねたネロは自滅への道を歩む。そしてアウグストゥスが創始した「ユリウス・クラウディウス朝」も終焉の時を迎える……。


☆「暴君」のイメージが定着してしまっている皇帝ネロだが、そのイメージをくつがえす塩野七生流新解釈に注目。文庫本今巻末の付記「なぜ、自らもローマ人であるタキトゥスやスヴェトニウスは、ローマ皇帝たちを悪く書いたのか」に記された塩野さんの考え方が興味深く、いかに自分が「暴君ネロ」と言うイメージに囚われていたか、目からウロコの思いであった。
 史実は一つなのだろうが、後生の解釈一つでいくらでも歴史上の人物に対する評価が変わると言う好例で、本書で表されているネロは決して「暴君」ではないように思われる。塩野さんは別にネロに肩入れするでなく、あくまで公平に史実を記しながら自分なりの解釈を加えると言うスタイルで非常に信頼感があった。ネロは新進気鋭の若き皇帝で人気も高く、自ら人々の前で演奏して賞をかっさらっていく芸術家気取りは困ったものだけど、笑ってすませるレベル。今巻を読んでも4分の3までは若さによるしくじりはあっても、まあ及第点と言っても良い善政ぶりしか見出せない。最後に疑心暗鬼に狩られて自らの暗殺計画の関係者と思われる人物を大量処刑したのは「暴君」と呼べる蛮行だったが、それも彼の愚かさは責められても決して「暴虐」だったのではないと読む事が出来る。
 塩野さんの歴史に対する考え方が示された今巻は、シリーズ中でも注目すべき内容だったように思う。 


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