サウンドトラック〈上〉古川 日出男
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東京は異常な街に変貌していた。ヒートアイランド現象によって熱帯と化し、スコールが降りそそぐ。外国人が急増し、彼らに対する排斥運動も激化していた。そんな街に戻ってきた青年トウタと中学生ヒツジコ。ふたりは幼いころ海難事故に遭い、漂着した無人島の過酷な環境を生き延びてきたのだった。激変した東京で、ふたりが出会ったものとは―。疾走する言葉で紡がれる、新世代の青春小説。


☆「アラビアの夜の種族」に続いて読んだ。独特の饒舌な文体と混沌とした世界観は健在。東京破滅小説だそうだが、今巻では幼い頃捨てられたり事故で無人島のサバイバル生活を強いられたトウタとヒツジコが、東京に帰還してから別れ、それぞれ独自の人生を歩み始めるまでの様子が描かれ、さほど「東京」を意識させられる事もないのだけど、地方に住む人間としては外国の話を読んでいるのと変わりなかった。「混沌とした」と書いたが、細部の書き込みは執拗なのに、なかなか全体像が浮かび上がって来ない。トウタとヒツジコ、それぞれの数奇な人生がどのように交わって来るのかもこの時点では想像も付かず、物語が収斂するどころか、どんどん拡散していく感を覚えてしまった。
 だが、このカオスな世界観が古川日出男のくせのある文体と相まって不思議な陶酔を生み出す中毒性がある。恐らく受け付けない人には全くダメで読み手を選ぶのは間違いない。


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