火車 宮部みゆき

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休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して――なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか? いったい彼女は何者なのか? 謎を解く鍵は、カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。


☆淡々として起伏に乏しい展開だが、身につまされる話で異様な迫力を感じ、この大冊を一気に読まされた。かなり時代を感じさせる古い内容もあるが、クレジットカードの乱用や見通しの甘い住宅ローンで身の破滅を招くのは今でも十分あり得るし、個人的には背筋が凍るのを覚えた。犯人を執念で追い詰める過程の執拗な捜査の結末を何もわからないままに終わらせる手法は、読者の想像力を喚起して巧み。宮部みゆきの小説作りの腕だ。
 私たちの身近にポッカリ空いた、現代日本の闇を執拗に描いた迫力は大いに賞賛に値すると思うが、気になったのは誰にも悪意を感じられない人間の描き方。結局、取り立て屋が一手に悪を引き受けているわけだが、こちらは逆に「鬼」の一言で片付けられ、生身の人間ではないかのようだ。名作なのは間違いないが。


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