チヨ子 宮部みゆき
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五年前に使われたきりであちこち古びてしまったピンクのウサギの着ぐるみ。大学生の「わたし」がアルバイトでそれをかぶって中から外を覗くと、周囲の人はぬいぐるみやロボットに変わり―(「チヨ子」)。表題作を含め、超常現象を題材にした珠玉のホラー&ファンタジー五編を収録。個人短編集に未収録の傑作ばかりを選りすぐり、いきなり文庫化した贅沢な一冊。


☆超常現象を取り上げている共通点があると言うのは、解説を読んで初めてわかった。読んでる時は一作毎にえらくテイストが異なっていて、良く言えば多彩な、悪く言えば寄せ集め感の強い短編集と言う感じ。作品としては冒頭作の雪娘が見えなかった話の苦い後味と、ラストの力が入った中編が印象に残った。特に「英雄の書」にも繋がるラストの力作は、それだけでこの短編集は良いのではと思わせてくれた。作者の頭を疑うような迫力で、理性派宮部みゆきがこれを書いたのは、確かに作家としてのターニングポイントを意識してのものと思われた。一読の価値あり。


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