図書館の魔女 第四巻 高田大介
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手を汚さずして海峡に覇権を及ぼす、ニザマの宦官宰相ミツクビの策謀に対し、マツリカは三国和睦会議の実現に動く。列座したのは、宦官宰相の専横に甘んじてきたニザマ帝、アルデシュ、一ノ谷の代表団。和議は成るのか。そして、マツリカの左手を縛めた傀儡師の行方は?超大作完結編。第45回メフィスト賞受賞作。


☆文庫4分冊の4巻目にして600ページ超えと言う巨編。だがフィナーレを飾るに十分な圧巻の内容で、大満足のうちに数日で読破した。これまでセーブされて来たヒロイックファンタジー的内容が中盤を占め、キリヒトが超人的な活躍を見せる文字通り手に汗を握る展開だったので読書スピードが上がった。マツリカを襲撃して左手に呪いを掛けた「双子座」の意外な正体を巡る錯綜したストーリーの伏線が回収され、本格ミステリを読んでいるような興奮を覚えたが、この巨編中でも白眉のストーリーだったと思う。そして恐るべき凶悪な敵を前にしても手を繋いでコミュニケーションを図りながら戦ったキリヒトとマツリカ。口を利く事が出来ないマツリカの言葉を周囲に届けるため、2人が特殊な手話を介して手を取り合っていかねばならないと言う巧妙な設定に舌を巻かされる。「双子座」との対決後に、激情に駆られて泳げもしないのに海に飛び込んだマツリカをキリヒトが救出するエピソードも巧妙で、海への恐怖が増大したマツリカは船旅の残りをキリヒトと並んで手を繋ぎ抱き合うようにして眠る。超人的な能力の高さに騙されそうだが、まだ少年少女と形容出来るほど若い2人が一線を越える事こそなかったものの、それ以上のインパクトがあった。だがそんな恋する図書館の魔女マツリカが、キリヒトと別れねばならないラストは、ほろ苦くもありかつ未来への希望を抱かせる。マツリカとキリヒトの物語は終わったのでなく、ここから始まるのだ。
 ライトノベルを読んだ直後に読んだので余計に情報量が凄まじく読みにくい本書の欠点がクローズアップされる事になったが、ヒロイックファンタジー的内容のおかげで今巻はまだその欠点が緩和されているように思った。私はこの「読み辛さ」を理由に減点して評価して来たのだが、この巨編の終わりに満点評価を付けたいと思う。内容的には既に古典の風格すら感じられるハードファンタジーの大傑作で、オールタイムベスト級と言っても過言ではない。活字好きなら是非この本の読破に挑戦して欲しい。こんな凄いファンタジーが日本で書かれていたのかと度肝を抜かれる事、請け合いである。


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