それから 夏目漱石
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長井代助は三十にもなって定職も持たず、父からの援助で毎日をぶらぶらと暮している。実生活に根を持たない思索家の代助は、かつて愛しながらも義侠心から友人平岡に譲った平岡の妻三千代との再会により、妙な運命に巻き込まれていく……。破局を予想しながらもそれにむかわなければいられない愛を通して明治知識人の悲劇を描く、『三四郎』に続く三部作の第二作。


☆主人公代助は三十にもなるのに働こうとせず、親の仕送りで生活している情けない男。資産家の娘(しかも美人)との縁談を迫られているのに、のらりくらりと交わしてばかり。そのくせ文化人気取りで、親族も知り合いも小馬鹿にしている。だが、自分の友人にかつて紹介した女性が愛のない結婚生活と経済的にも窮地に陥っている様子を知り、自分が彼女が好きだった事を改めて確認。友人も親族も裏切って略奪愛を決意し、破滅に向かって突き進む。
 とんでもない男だが、現代の日本だからそんな存在が許されたわけであり、困ったことに私は代助に強い共感を覚えてしまった。もちろん働かずに食べていけるような裕福な身分はないのだが。代助が友人の妻を寝取る決意を決めてから破滅に向かって走り出すラストまでの展開は正に圧巻で、文学史上に残る名作だ。


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