家族八景 筒井康隆
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幸か不幸か生まれながらのテレパシーをもって、目の前の人の心をすべて読みとってしまう可愛いお手伝いさんの七瀬――彼女は転々として移り住む八軒の住人の心にふと忍び寄ってマイホームの虚偽を抉り出す。人間心理の深層に容赦なく光を当て、平凡な日常生活を営む小市民の猥雑な心の裏面を、コミカルな筆致で、ペーソスにまで昇華させた、恐ろしくも哀しい本である。


☆30年ぶりくらいに再読したが、全く色褪せぬ面白さで、一気に読了。筒井康隆の天才ぶりを再確認した。どこにでもいそうな家族の心の闇を抉り出す容赦なさは今でも十分に通用する、と言うよりむしろ今読んだ方がしっくり来た。私自身の人生経験故か、確かにこういう人間っているよなあ、と痛感するのである。七瀬がテレパシーで感知してしまう人の心理描写が冴えており、小さな亀裂が徐々に広がって破滅へと向かう様が生々しい。オムニバス短編集だが一作毎に迫力を増し、最後に生きたまま火葬されてしまった女性の呪詛を浴びたのは七瀬が家政婦をやめるきっかけになったと思われるが、若くして凄まじい経験をさせられた七瀬の今後が案じられる。
 ともあれ、テレパスと言う超能力者の悲哀を描いた先駆的な名作。もう2作も再読してみたい。


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