夜歩く 横溝正史
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「我、近く汝のもとに赴きて結婚せん」という奇妙な手紙と佝僂の写真が、古神家の令嬢八千代のもとにまいこんだ。三日後に起きた、キャバレー『花』での佝僂画家狙撃事件。それが首なし連続殺人の発端だった……。因縁の呪いか? 憎悪、貪欲、不倫、迷信、嫉妬と、どす黒い要素が執念深くからみあって、古神家にまつわる、世にも凄惨な殺人事件の幕が切って落とされた!!


☆金田一耕助不在の前半が長く少しダレ気味。やはり金田一の魅力が横溝作品を支えている事を痛感した。が、金田一が登場するといつになく快刀乱麻の名推理を発揮して、あっと言う間に難事件を解決してしまう。何と真犯人がハッキリと彼に敗北宣言をした上に、金田一の好人物ぶりを評価して自分の大切な人を彼に託すのは驚きの展開。
 読み終わると金田一不在の前半が叙述トリックを仕組むための巧妙なl構成であった事がわかるのだが、本格推理としてはアンフェアとも思える情報の伝え方。が、この時代にこんな大技を日本のミステリに取り入れた手腕は評価したい。読者を欺こうとしている手口に気付いても腹は立たず、むしろ爽やかな読後感する感じさせるのは金田一の人柄故か。
 いがみ合う旧家同士の複雑な人間関係、夜行症、身体障害、精神障害、男性不能、媚薬、そして首なし連続殺人と横溝作品らしい要素が詰まっているが不思議とスラスラ読めて、逆に肩透かしの印象も受けた。叙述トリックに欺される後半の怒濤の展開に比べて、やはり前半の弱さが残念。金田一は偉大だ。


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