八つ墓村 横溝正史
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戦国の頃、三千両の黄金を携えた八人の武者がこの村に落ちのびた。だが、欲に目の眩んだ村人たちは八人を惨殺。その後、不祥の怪異があい次ぎ、以来この村は“八つ墓村”と呼ばれるようになったという――。大正×年、落人襲撃の首謀者田治見庄左衛門の子孫、要蔵が突然発狂、三十二人の村人を虐殺し、行方不明となる。そして二十数年、謎の連続殺人事件が再びこの村を襲った……。現代ホラー小説の原点ともいうべき、シリーズ最高傑作!!


☆横溝正史は母が大ファンでよく文庫本を読んでいた。私も代表的な作品くらいは読んでいるのだが、本屋で新装版?らしき文庫シリーズを発見したので、この際だから全部読んでみることにした。
 私の年代なら誰でも「たたりじゃ~」の名コピーとTVドラマシリーズを思い浮かべるんじゃんないかと思う。コナン君のオリジナル、名探偵金田一耕助は古谷一行で、薄汚い格好の彼が考える際に逆立ちするのが印象的だった。そして中世からの因習を残し複雑な人間関係に縛られた田舎で、おどろおどろしい連続殺人が起こる。
 さて再読した「八つ墓村」は昔の印象と違って、結構アッサリ読めてしまった。面白くなかったわけではない。その証拠に何と正味1日で読み終えてしまったのだから。
 横溝正史の代表作とされているこの作品は、この恐怖の村の大家の跡継ぎだとして呼び戻される主人公の1人称で語られるのが大きな特徴。それから彼の行く先々で村人が次々と死んでいき、初めから彼のことを快く思っていなかった村人達に嫌疑を掛けられ、無実なのに惨殺されそうになって洞窟に隠れることに。が、その洞窟の中にも追っ手がやって来て、追い詰められた末に・・・
 正直殺人そのものには思ったほど恐怖を感じなかったが、因習に凝り固まった村人に追い詰められていく恐怖はリアルだった。もう一つ特筆すべきは、萌え要素満載の典子との恋愛模様。クライマックスの洞窟での絶対絶命場面も彼女と一緒に行動し、初対面では知恵遅れに見えた無邪気な彼女に救われるのである。
 もう一人、実は彼のことを慕っていた姉も泣かせる。洞窟の中で彼に食事を差し入れようとやって来て、真犯人に殺されるのだが、息を引き取る寸前彼への想いを告白し、彼に抱かれる幸せに浸りながら死んでいくのだ。
 本格推理ものでなく、探偵ものの冒険活劇だと思った。例えば真犯人を悟らせないためのミスリードは見られず、途中からコイツが怪しい、と言うのが丸わかりなのだが、逆に疑心暗鬼にさせられた。ともあれ、何度も映像化された有名作品は、やはり小説の出来が素晴らしかった。まあ、「たたりじゃ~」の濃茶の尼とか、発狂して24人惨殺した男の一度見たら忘れられない奇異な格好とか、映像のインパクトは今もトラウマ級に残っているんだけど。



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