花ざかりの森・憂国―自選短編集 三島由起夫
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十六歳で、少年の倦怠を描いた作品「花ざかりの森」を発表して以来、様様な技巧と完璧なスタイルを駆使して、確固たる短編小説の世界を現出させてきた作品群から、著者自らが厳選し解説を付した作品集。著者の生涯にわたる文学的テーマや切実な問題の萌芽を秘めた「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」「詩を書く少年」「海と夕焼」「憂国」等13編を収める。


☆表題作が難解だったが、後書きで作者自身がそれほど高く評価していないと読み安心。他の作品は多彩で、若き天才作家三島由起夫の才気が迸ると同時に詩的な好短編集と思った。面白かったのはまず「憂国」。二・二六事件に題材を取り、若妻と一緒に自害する青年将校を描いているが、彼の切腹の生々しい描写が圧倒的。そして既に覚悟を決めていた妻も夫の凄惨な死を見届けた上で後を追うのだが、エロティシズムが凄まじく究極の官能小説として読める。タイトル「憂国」や作者自身のイメージから予想されたイデオロギー的な内容はほとんどなく驚いた。一番感心したのは「女方」。これも作者自身の性的嗜好を考えると実に興味深く、歌舞伎の女方と言うほとんど知られることのない世界の恋愛模様を描いて秀逸。「橋づくし」「百万円煎餅」「遠乗会」などもちょっとした皮肉が利いた、短編らしい短編。
 一方表題作は今一つだったが、続く「中性に於ける一殺人常用者の遺せる哲学的日記の抜粋」では、内容より詩的散文の美しさに惹かれた。「詩を書く少年」や「海と夕焼け」なども印象的。現代の目で読んでもハイレベルな短編集であるのは間違いない。


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