熊と踊れ 下 アンデシュ・ルースルンド ステファン・トゥンベリ
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緻密かつ大胆な犯行で警察を翻弄し、次々と銀行を襲撃していくレオたち。その暴力の扱い方は少年時代に父から学んだものだった。かつて彼らに何がおこったのか。そして今、父は何を思うのか――過去と現在から語られる〝家族〟の物語は、轟く銃声と悲しみの叫びを伴って一気に結末へと突き進む。スウェーデン最高の人気を誇り、北欧ミステリの頂点「ガラスの鍵」賞を受賞した鬼才が、圧倒的なリアリティで描く渾身の大作。


☆文庫本下巻だけで600ページ近い大作だけどほぼ2日で読み終えた。ミステリと銘打たれてるけど謎解きの要素はなく、実在の事件を題材に書かれた犯罪小説。上巻は3兄弟と親友から成る犯行団の、緻密で大胆な犯行手口に圧倒される思いだったが、下巻は連続犯行を嫌って離れていく弟たちを捨てた主犯格の長男が、その愚かさ故に見限ったはずの親友と、実行犯に加わらせなかった年上シングルマザーの恋人、そして逃げていった妻を取り戻すため実家に放火して前科者となった粗暴で愚かな父親を仲間に入れて、最後になる筈の銀行強盗を実行する。過去のエピソード、そして自分を追う警察側のエピソードを交えながら、まるで自ら破滅に向かい突き進んでいくような彼の描写が圧倒的な迫力でグイグイ引き込まれた。一歩引いて見れば、暴力的な父親を超えようとする息子と言う、「暴力の連鎖」と言った社会的な問題提起がうかがえるが、読んでいる間は何とも悲しくやり切れない彼の心情で胸がいっぱいになった。信頼に足る弟たちから見放された代わりに明らかに役不足な3人と最後の犯行に向かい、しかも彼を追う警察側の代表にあえて見せつけるような工作もしている彼は、やはり自ら破滅する事を望んだのだろう。雪の中を逃亡中運転手の恋人が事故して車と一緒に警察に下ると離脱してしまい、歩いて逃亡中湖にはまって凍傷の危機にさらされ、そして・・・読み終えた後しばらく呆然としてしまうくらい、凄い小説だった。

 ミステリーと言うカテゴリーでは本質を見失う。私が一番感じたこの本のテーマは「家族の絆」だな。

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