エディプスの恋人
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ある日、少年の頭上でボールが割れた。音もなく、粉ごなになって。――それが異常の始まりだった。強い“意志”の力に守られた少年の周囲に次々と不思議が起こる。その謎を解明しようとした美しきテレパス七瀬は、いつしか少年と愛しあっていた。初めての恋に我を忘れた七瀬は、やがて自分も、“意志”の力に導かれていることに気づく。全宇宙を支配する母なる“意志”とは何か? 『家族八景』『七瀬ふたたび』につづく美貌のテレパス・火田七瀬シリーズ三部作の完結編。


☆七瀬シリーズは筒井作品では異色の存在で、お笑い要素が一切なく、全編に緊張感が溢れている。得意のドタバタコメディでも書けそうなモチーフだけど、三作目で遂に壮大な構想が明らかになった。全宇宙を支配する「意志」を描こうと言う哲学的思弁SFを直球勝負で描き切ったのは評価に値する。
 ただし、エンタメ性を犠牲にしているのは否めないと思う。今巻早々に先が読め、予想通りの展開で終わるので、少しひねりが欲しいと言ったら贅沢だろうか。タイトル含めて直球勝負で、豪速球ではあるんだけど。


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