リトル・シスター レイモンド・チャンドラー 
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「行方不明の兄オリンを探してほしい」突然現れたオーファメイと名乗る若い娘は、私立探偵フィリップ・マーロウにそう告げた。娘のいわくありげな態度に惹かれマーロウは依頼を引き受けるが、調査に赴いた先で、次々死体が……。事件はやがて探偵を欲望渦巻くハリウッドの裏通りへ誘う。『かわいい女』新訳版。


☆あまり高く評価されていない作品。何より作者自身がそう思ってたらしいのだが、個人的には素晴らしい出来と感じた。冒頭から過剰でシニカルな描写たっぷりのチャンドラー節が炸裂。マーロウも依頼人を守る筋を通して警察側と対立し留置場に入れられるわ、女性からのアプローチをことごとくはねのけるわと、いつもの硬骨漢ぶりを遺憾なく発揮。実際に映画ビジネスと関わっていたチャンドラーが業界への不満をぶちまけている感もあり、複雑なストーリーでミステリーとして整合性に欠ける部分もあるようだが、私はそんな完成されたミステリーをチャンドラーに求めているわけではないのだ。本当に悪い奴は逃がしてしまい、自分なりの愛を貫いた人間は破滅する苦い結末と、それでも自分の主義を曲げないマーロウの苦渋が強く印象に残った。
 作者が嫌ったと思われる要素も含めてこれこそチャンドラーなのだ。あえて満点評価。


レイモンド・チャンドラー レビュー一覧