高い窓 レイモンド・チャンドラー
0982f042


私立探偵フィリップ・マーロウは大邸宅に住む老女主人から呼び出される。貴重な金貨を持ち逃げした息子の嫁を探して欲しいと言うのだが……だが彼の行く手には脅迫と、そして死体が! 待望の新訳版


☆ 村上春樹新訳を読了。もっともこの作品は初読なので新訳うんぬんは関係ない。どうも作者のチャンドラーにとっては良い出来ではないようだが、一読者としては大満足。長過ぎるきらいがある、世評高い「長いお別れ」より上の出来なのではないか。ミステリとしてのまとまりがあり、目まぐるしく場面を変えながらスリリングなストーリー展開で全く読者を飽きさせることがない。
 だがやはりファンとして嬉しいのは、ハードボイルドでNo.1の好漢である私立探偵フィリップ・マーロウの活躍と、筋を曲げない硬骨ぶり。あるいは権力におもねらず弱者に暖かい視線を向けるチャンドラー節だ。仮に本格物だとすればミステリーとして破綻が多いと指摘されるチャンドラー作品だが、そんなのは目じゃない。
 ミステリーとしてでなくとも十分読ませるのがチャンドラーなのだ。特別に秀でた人間ではないけれど、これほど格好良い男はいないフィリップ・マーロウの生き様には男として憧れざるを得ないが・・・たぶんチャンドラー自身がマーロウのようなメンタリティーの人間だったんだろうな。


レイモンド・チャンドラー レビュー一覧