ダンス・ダンス・ダンス(上) 村上春樹
2146WGSMTPL


『羊をめぐる冒険』から4年、激しく雪の降りしきる札幌の街から「僕」の新しい冒険が始まる。奇妙で複雑なダンス・ステップを踏みながら「僕」はその暗く危険な運命の迷路をすり抜けていく。70年代の魂の遍歴を辿った著者が80年代を舞台に、新たな価値を求めて闇と光の交錯を鮮やかに描きあげた話題作。


☆実はチャンドラーの新訳で興味を持ち、「ノルウェーの森」など数作品しか読んだ事のなかった村上春樹を初期の作品から読み直している。その結果、ハードボイルドでスタイリッシュな文章に共通点があり、なるほど村上春樹がチャンドラーを訳したかったわけだと納得した。
 やはり村上春樹もスタイリッシュで諧謔に富んだ文章が一番の長所で、慣れると読んでいてとても心地良い。個人的にはその慣れ故であろうが、初期三部作の中でも本作が最も読み易く傑作と思った。村上春樹は私と同世代なので、70年代から80年代への転換を扱った内容も共感を覚えるところが多いのも確か。もちろん作中人物のような優雅な暮らしやハードルの低い性生活なんか私には無縁だったけど、それでもあの時代の感覚は確かによくわかるのだ。高度経済成長期に入って、大量生産の物資で皆が豊かだが画一的で没個性な生活に変わり、古き良きものは捨てられる。そんな時代を描いているので、初期三部作や本作は若い世代には面白くないだろうと思う。
 いずれにしても個人的に極めて波長が合ったこの作品、まだ上巻だけど満点評価としたい。


村上春樹レビュー一覧