十字軍物語 第三巻: 獅子心王リチャード 塩野七生
無題


イスラム最高の武将サラディンと、中世最大の騎士にして英国王リチャード獅子心王率いる第三次十字軍の息を呑む攻防。ヴェネツィア共和国の深謀遠慮に翻弄されるばかりの第四次十字軍。業を煮やしたカトリック教会自身が武器を手にして指揮を執った。掟破りの第五次十字軍―。知略の渦巻く中世地中海世界を舞台に、物語はハイライトへ。『十字軍物語3』を文庫第三巻、第四巻として分冊。


☆獅子心王リチャードは、いかにも塩野七生好みのヒーローで、今巻の過半数を費やして語られるリチャードの活躍には目を見晴らされる。が、リチャードが没した後こそが彼女の真価が発揮される部分だと思う。
 彼女自身の先行作と重なるとして大きく省略されたりしているが、先人の歴史家の記述を参考にしつつ、塩野七生独自の視点で「十字軍」を小説化した意図が語られており、とても興味深かった。例えば、リチャードをどう評価するかと言う点で、彼女が肩入れし弁護して書いているのを、自分から語っているのが潔い。キリスト教的立場から語られがちな「十字軍」を、立場にとらわれずに描こうとした意義は大きく、キリスト教側の無理筋がせっかく共存が成立していた「聖地」を再び戦火に投げ込んだ、という観方も出来るのだと理解した。
 今日の世界でも、一触即発な中東情勢。サラディンとリチャートの間で成立した講和により、とにかくしばらくは平和がもたらされた事に価値を見出す塩野七生は、歴史に学ぶ事の大切さを訴えている。


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