虫樹音楽集 奥泉光
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ジャズ全盛の1970年代。サックスプレイヤー通称「イモナベ」は、『孵化』というライブを全裸で演奏して以降、精神に変調をきたしたとの噂と共にジャズシーンから姿を消した。ところが1990年、小説家になりたての私は『変態』と題されたライブチラシを見つける。イモナベの行方を尋ねた「私」が見たのは絶対にありえない戦慄の風景だった。カフカ『変身』とジャズを見事に融合させた傑作連作短編。


☆結構バラバラに発表されたオムニバス短編集。妙にリアルな書き方から実話と勘違いしそうだが、フィクションらしい。音楽関係、特にジャズなんて全くの門外漢なので、モデルの人物がいたのか全くわからないが、十分読ませるのはさすがの筆力である。カフカの名作「変身」がモチーフだが、「変身」は本当は「変態」なのだと言うジャズミュージシャンの寄行を後から回想して、本当の出来事であったのか調べるミステリタッチの内容に引き込まれた。が、サイドストーリーのように挟まれた「虫樹」に関するエピソードが圧倒的な迫力で、本書のキモ。「虫」の描写は生理的な嫌悪を覚えるが故に、強烈な印象だった。あえて具体的には触れないが……
 カフカの名作をモチーフに幻想的なイメージを綴ったジャズ小説、と評しておく。これじゃどんな内容だかわからないが。(笑)


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