華胥の幽夢 十二国記7 小野不由美
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王は夢を叶えてくれると信じた。だが。 才国(さいこく)の宝重である華胥華朶(かしょかだ)を枕辺に眠れば、理想の国を夢に見せてくれるという。しかし、采麟(さいりん)が病に伏すいま、麒麟が斃(たお)れることは国の終焉を意味する国の命運は──「華胥」。雪深い戴国(たいこく)の王が、麒麟の泰麒(たいき)を旅立たせ、見せた世界は──「冬栄」。そして、景王(けいおう)陽子(ようこ)が親友楽俊(らくしゅん)への手紙に認(したた)めた希(ねが)いとは──「書簡」。王たちの理想と葛藤を描く全5編。


☆これまでバラバラの感なきにしもあらずだった十二国記。各国に関わるストーリーの隙間を埋める趣旨の短編集だが、国を治める政治のあり方についての深い洞察が見られて感心した。特に表題に出て来る「華胥」の出来映えが出色。官僚の腐敗を許した先王の暴政を厳しく批判して新しく王座に着いた男。理想の国家を目指して「正道」を歩んだ筈なのに苦い結末が待ち受ける。随所で洞察に富んだ名セリフがあり、特異な設定のファンタジー世界の話だが、十分にリアルな世界で通用する苦さだった。
 最後の「帰山」でようやく心温まるストーリーを読んだ感じだが、登場人物に容赦なく過酷な試練を与える十二国記らしい緊張感溢れる短編集で、やはり凡百のファンタジーの甘さからは突出している。読み応え十分でズシリと重たい読後感だった。


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