グラスホッパー 井坂幸太郎
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「復讐を横取りされた。嘘?」元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。鈴木は正体を探るため、彼の後を追う。一方、自殺専門の殺し屋・鯨、ナイフ使いの若者・蝉も「押し屋」を追い始める。それぞれの思惑のもとに――「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。疾走感溢れる筆致で綴られた、分類不能の「殺し屋」小説!


☆何の予備知識もなく読み始めたが、すぐに引き込まれた。3人の人物の1人称語りだがミステリアスな内容で、これがどのように交わり1つのストーリーとなるのか、大いに興味をそそられた。理不尽な暴力を扱い、くせのある話なので万人向けとは思えないが、波長が合えば卓抜なストーリーテリングと構成力に感心すると思う。
 殺し屋同士の争いが加速して絶体絶命のピンチに陥った一般人の「鈴木」が、何とか窮地を脱した終盤が本作のハイライト。それまでに張られた伏線が回収されて安堵すると同時に、妻を失った「鈴木」が生きる力を取り戻す描き方は前向きで素直に良かった。タイトルを含めて随所で隠喩的表現が見られるのも作者のセンスの良さを感じる。


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