グリーン家殺人事件 ヴァン・ダイン
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ニューヨークのどまんなかにとり残された前世紀の古邸グリーン家で、二人の娘が射たれるという惨劇がもちあがった。この事件をかわきりに、一家のみな殺しを企てる姿なき殺人者が跳梁する。神のごときファイロ・ヴァンス探偵にも、さすがに焦慮の色が加わった。一ダースにのぼる著者の作品中でも、一、二を争うといわれる超A級の名作。


☆格調高い館ものミステリーの古典的名作。今読んでも、異常に互いを憎しみ合っている家族が一人ずつ殺されていくサスペンスが素晴らしく、十分に楽しめる。本格ミステリとしては「意外な真犯人」が最大のトリックかと思うが、どんどん対象者が減っていくので、途中でほぼ推測されてしまうのが難点。ただそれは後続作品を沢山読んでいるから思う事であって、当時としては斬新なアイディアだったに違いない。大作なので難しいが、再読すれば真犯人の用意周到さが発見出来て面白いかも知れない。真犯人が物理トリックや化学トリックを駆使して、他の人間に犯行をなすり付けようとするミスリードの巧みさも読み所だ。ただし個々のトリックには無理を感じさせるものもあって、気になった。
 もう一つ難を挙げると名探偵ファイロ・ヴァンスが終盤まで動きが鈍い事。最後は見事な謎解きを披露してくれるが、途中では煙に巻いてばかりで、実は犯人に翻弄されっ放しだったように読めてしまった。相棒も辟易している衒学趣味もやり過ぎで、読者としても辟易する所があった。
 しかしながら現代でも十分に通用する名作である事は間違いない。


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