悪の教典(下)貴志 祐介
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圧倒的人気を誇る教師、ハスミンこと蓮実聖司は問題解決のために裏で巧妙な細工と犯罪を重ねていた。三人の生徒が蓮実の真の貌に気づくが時すでに遅く……。学園祭の準備に集まったクラスを襲う、血塗られた恐怖の一夜。蓮実による狂気の殺戮が始まった! ミステリー界の話題をさらった超弩級エンターテインメント。


☆下巻も読み易く短時間で読了。全体を通しての感想としてはまず、少しも怖さを感じずホラー小説ではない、と言うもの。主役の蓮実聖司はサイコパスと言う設定だから意図的にそんな描き方をしているのだろうが、一切感情移入できない。その他の登場人物も心理描写が乏しいため、ほとんどゲーム感覚で大量殺人が行われ、恐怖は伝わって来ない。もしこの作品をホラーに仕立てるのならば、映像化などが有効だろう。登場人物の心理は読み取るべしと言う書き方で、戯曲に近い感触だった。
 一方l、殺し方などのディテールは実に詳細でリアルに書き込まれており、クライマックスの1クラス40人を1人で殺戮する場面はスリリングで読み応えがあった。少し気になったのは、生徒たちが無抵抗に殺されるのでなく、必死で抵抗するのだが、普通の進学校にこんなサバイバルに長けた生徒がたくさん存在するとは思えず、物語をドラマティックにするため無理に設定したと思われリアリティを著しく欠いてしまったこと。
 総じて心理描写が乏しく、大量殺戮などの悪事が詳細に描き込まれた作品で、読み手によって評価が異なる作品と言えそうだ。個人的には面白い異色のピカレスクロマンと評価する。


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