アルジャーノンに花束を ダニエル・キイス
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32歳になっても幼児なみの知能しかないチャーリイ・ゴードン。そんな彼に夢のような話が舞いこんだ。大学の先生が頭をよくしてくれるというのだ。これにとびついた彼は、白ネズミのアルジャーノンを競争相手に検査を受ける。やがて手術によりチャーリイの知能は向上していく…天才に変貌した青年が愛や憎しみ、喜びや孤独を通して知る人の心の真実とは?全世界が涙した不朽の名作。著者追悼の訳者あとがきを付した新版。


☆失礼ながらこれ一作で後生に残るであろう作者の代表作。オールタイムベスト級の名作であるのは間違いない。ただしこの作品は決して読み易くはないし、内容も苦いバッドエンドである。かなりの長尺でもあるから、万人に勧められるものではないと思う。基本的に活字好きでかつ物を考えるのが好きな人向けである。
 本作がまず優れているのは知能障害のある青年が新薬によってIQが飛躍的に高まるが、最後は元の状態に戻ってしまうと言うSF的アイディアを、この青年の1人称で書いた事。そのためIGの低い状態の時は極めて読み辛い文章となってしまうが、それを恐れずあえてやってのけた点は評価出来る。そしてそんな状態の彼が知能が異常に高まる事によって見えて来る人間の醜さや差別意識が赤裸々に描かれているので、それをどう捉えるか。もちろん時代的にも社会背景的にも違うので、こんな酷い障害者差別は現代の日本では考えられない、と言ってしまったらおしまいだ。少なくとも私はこの作品で描かれている人間の醜さや差別意識を自分も共有していると思ったし、だからこそしっかりと考えさせられた。
 「ついしん、どーかついでがあったらうらにわのアルジャーノンのおはかに花束をそなえてやてください」 この青年の最後の言葉に込められた痛みを理解出来る人間でありたいと思ったものである。


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